とはずがたり

ぬるま湯の中 首までつかってる いつか凍るの それとも煮え立つの

『MACBETH』@ラフォーレミュージアム原宿

矢崎マクベスみてきた。すごかった。久しぶりにストレートでしかも初シェイクスピアで初座長。期待して期待して観に行ったけど、まったくもって裏切られなかったよ。まだ観に行くので、感想というか思ったことを書く。書いて消化しないと。

まずね、シェイクスピアかよ…っていう気持ちは少なからずあったのね。で、私自身、矢崎マクベスのために初めてシェイクスピアの戯曲に手を出したのだけど、難しくなんかないね。最初の数ページは台詞が長くてまどろっこしいというか、もうかったるいくらいに思ったけど、慣れちゃえばお話は何も難しいところなんてなくてかなり単純なんだね。


事前のインタでも散々言ってたけど、「矢崎広で本気のマクベスをやっていいっていうから受けた」という板垣さんの言葉通り、ほぼ忠実。大きく変えてるのはラストの演出と中盤の門番のシーンだけかな?門番はかつやさんの遊び方がうまくて笑った。メタっぽいネタが入ってて「シェイクスピアだからって油断してただろ」っていうのはその通りすぎてwでもアレはダンカン王が殺されているのが分かる直前のシーンだから、緊張が解れて、そのあとがより衝撃的になるのかな、と思う。
あと、これもいろんなところで言われてるけど、ぴろしさんは25歳で、この若さでマクベスを演じるのは相当珍しいことらしい。残念ながら他マクベスを観たことはないので、そんなこと言われても何がどう特別なのか分かんなかったんだけどね。実際に観て、なんとなくだけど若い役者がやるからこうなってるのかなって部分はみつけた。夫人との関係性が変わってくるのかなって。やっぱりマクベスマクベス夫人との愛の話なんだよね。ただマクベスが堕ちていくことを悲劇としてるわけじゃないんだな、と。読んだとき以上に、マクベスが堕ちる理由が夫人への愛ゆえにっていうのが強く出てて、そこがかなり悲劇的だった。
というか、ぴろしさんがねー。すごい。狂乱になるところはもちろん凄いんだよ。独白も、ほんとすごい。あの台詞量、あのテンションで。がなるようで気になるっていう感想も見かけたけど、回を重ねる毎に落ち着いてきてる気がするし、個人的には別に気にならなかったからよし。それよりも、やっぱダンカン殺すのやめようぜ?(超要約w)って夫人をなだめるところがかなり好きです。オープンステージなので、上手下手で説明できないから難しいだけど、夫人が中央にいて、マクベスはその周りを歩きながら、今でも十分だから、そんなに急いで殺さなくたっていいだろ?的なことを言うわけよ。で、マクベスが夫人に背を向けた体勢のところで、夫人に、なんでやめるとか言うのよ!だったら、あなたの愛はそこまでだと思うわって言われるその瞬感にマクベスが夫人へ振り返るその顔が!すがるような目で!なんでそんなこと言うんだよ…っていう顔をしてるわけだよ。あの顔をみたときに、矢崎マクベスが目指すもの。25歳である矢崎広という役者がマクベスをやる意味やおもしろさを板垣さんがどう見出して、この話を受けたのか。その上で、比較的若い男性キャストを揃えた中で夫人を馬渕さんにした意図とか。スッと入ってきた気がした。とにかく、矢崎マクベスは、中堅の役者さんが演じるときには出せないような、妻への依存や生き急いでる感じを大事にしてるんだと思った。でもたぶんあの表情を全員が観られるわけじゃなくて。もったいないなーとも思うけど、たぶん私側からはみられていないものもあるから、しかたないかな。カメラがはいったので、映像化はされるんだけど、どこからの映像をつなぐのかってのもひとつ気になるところではある。どこを正面というか、観て欲しい角度だったのかっていう。カメラはいった日に行ってないので、どこに何台あったかわかんないんで何ともいえないですけど。


そして、マクダフと対峙して息絶えたマクベスは舞台中央で仰向けになったまま終演を迎える。相当激しい立ち回りの後なので、しょうがないんだろうけど、でも普通に息してるのが正直気になって。いや、温室でほんっとに微動だにしない橋下さんを見てしまったので、あっちゃんならおそらく動かないことを目指すのだろうと思っちゃって。でも我慢する素振りもなかったんで、あれは「眠り」なんだろうね。むしろ大きい呼吸をして眠ってることを意識させてるのか。なんて思ってたんですが。いま読み返したら、殺されてからマクベスの死体はマクダフにひきずられて舞台上から消えるんだね。そんで、首だけ持ってきてマルカムにみせて、君が王だ!ってたたえて、マルカム王が挨拶するわけで、その場面にはマクベスの死体は存在しないんだった。だからあれは象徴的な存在だから死んでる必要はないわけだ。そのあと新訳の方では、マルカム王一行が去って終わりなんだけど、矢崎マクベスは中央で眠るマクベスのもとに夫人がやってきて、かがんで頬に手をあてる。口づける感じだったか、微笑んでたのかまではわかんなかったから次で確認してくるとして、マクベスが手に入れたものは眠りだったわけですね。妻に愛を試されるような形でたきつけられてダンカン王を殺しちゃって望み通り王にはなれたけど、そのことでつきまとう不安や恐怖からの開放による安らかで平安な「眠り」を手に入れたんだと思っておく。


最後に、代役のゆうやくん。時間なかったのにすごいよ。すごかったけど、でも腹周り油断しすぎねw


いやしかし、役者としてこんなに幸せなことはないよね。「矢崎広」で「マクベス」をやりたいと制作会社のプロデューサーに言わしめるってすごい。鍋舞台の共演者さんはたくさん観に来てらっしゃるみたいだから、ぴろしさんを観て、負けてらんねえって言ってほしい。